地積規模の大きな宅地の損得(相続税法)
今ここに、同じ条件の 490㎡の土地 と 500㎡の土地 があったとします。どちらの相続税(評価額)が高いでしょうか。
実は、500㎡の土地の方が評価が下がる(相続税が安い)場合があります。今日は、大き目な土地を買うときは、500㎡以上にした方がいいかも、というお話をします。
相続税の計算は、亡くなった人が亡くなった日に持っていた全ての財産を計算するところから始まります。現金や預金なら、単位円なのでいくらにするか迷うことはありませんが、土地はいくらになるでしょう。相続税のルールに従いながら、いかに安く評価するかが、税理士の腕の見せ所になります。
平成30年1月1日より、旧来の「広大地の評価」に代わり、「地積規模の大きな宅地の評価」が創設されました。どちらも大きな土地の評価を安くするルールです。なんで大きな土地は安くなるの?と思われるかもしれません。
土地に戸建て住宅を建てることを想定した場合、大きな土地ですと、何軒かに分けて売る必要がありますよね。分譲行為は原則として宅地建物取引業の免許がないとできないので、土地の所有者は住宅を建てる個々人ではなく、土地を開発する不動産業者(ディベロッパー)に土地を一括して売却することが考えられます。
そうしますと、ディベロッパーは、分筆したり道を作ったり整地したり、色々とお金も手間暇もかかりますから、当然土地の価格からそれらの見込額を差し引いた価格で買いますよね。つまり、大きな土地はディベロッパーにしか売れないから、ディベロッパーに売る安い価格で評価して税金をとりましょう、というのが元々の発想になります。
この地積規模の大きな宅地の評価を使うと、20%~36%の評価減効果があります。つまり、490㎡の土地より500㎡の土地の方が安くなってしまうんです。
さて、こちらの地積規模の大きな宅地の評価ですが、色々要件があるので、どこでも適用できるわけではありません。
【要件】
①三大都市圏においては500㎡以上の地積の宅地、それ以外の地域においては1,000㎡以上の地積の宅地であること
②次の(イ)から(ハ)までのいずれかに該当するものではないこと
(イ)市街化調整区域に所在する宅地
(ロ)工業専用地域に所在する宅地
(ハ)容積率400%以上の地域に所在する宅地(東京都特別区は300%以上)
③普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区として定められた地域に所在すること
まず①から説明します。三大都市圏かどうかは、場所によって決まっています。ちなみに私のお客様の多い 木更津市・君津市・富津市・袖ヶ浦市・市原市は 「一部が三大都市圏」ということで、500㎡基準の場所と1,000㎡基準の場所が両方あるようです。個別に調べる必要がありますね。
②ですが、地積規模の大きな宅地は、そもそも戸建て住宅を建てる土地、というのが前提になります。市街化調整区域は、元々家が建たない(農家の分家住宅とか、農業用の小屋なら建ちますが、ディベロッパーが分譲することはありません)ですし、工業専用地域も工場しか建たないので、対象外です。容積率400%以上というのは、〇階建ての高い建物が建てられるので、分譲しなくてもそのまま高く売れる土地だから対象外ですね。
③が結構過酷な条件なんですが、例えば中小工場地区の土地だったりすると、即アウトです。私の好きな池井戸ドラマ、「下町ロケット」の舞台である東京都大田区あたりでは、中小工場地区といえども廃業等で工場はあまりなく、住宅街になっているところも多いでしょう。見たところ戸建て住宅ばかりなんだから、地積規模の大きな宅地の評価が使えるはずだ!と思っても、中小工場地区だったら問答無用で対象外です。
ちなみに、地積も実測で499㎡だったら、対象外です。完全に形式基準になります。そのかわり、もし登記が500㎡なくても縄伸びの可能性があるなら、きちんと調べて500㎡あれば、適用できるかもしれませんね。
ただし、注意点もあります。例えば700㎡の土地をもっている方が、そのうち400㎡を自宅、300㎡を月極駐車場にしていた、など地目や利用が違うという場合には、相続税の世界では700㎡の土地ではなく、400㎡の土地と300㎡の土地という扱いになります。350㎡ずつ2人で相続した場合も、取得者ごとに評価するため、350㎡の土地2つの扱いになって適用なしです(共有の場合は700㎡で適用あり)。間に道があって隣接していない場合も、別の土地になりますね。
相続税の損得は、他にもいろいろな要素があるので、一言でこれがいい、とは言えません。私もアドバイスするときは、資料をいただいてお話をうかがってから、ああでもないこうでもないと、色々な可能性を考慮して、検討しています。ですから、今お話ししたことは、一つの情報くらいに思っていただければ幸いです。
500㎡、というのがひとつの基準になる。広い土地をお持ちの方は、是非この数字を覚えておいてくださいね。