110万円の贈与が使えなくなる?(相続税法改正)
毎年110万円ずつ贈与すれば、税金がかからない。最も有名な相続税対策なので、実際に行っている方も多いのではないでしょうか。それが、もうすぐできなくなる?という記事が、最近あちこちで見られます。一体どういうことでしょうか。
そもそも、親から子が財産をもらうのに、税金がかかるというのが納得いかない方も多いでしょう。国税としては、「タダでもらったんだから税金払えるでしょ?」ということで、そこに担税力(税金を負担する能力)があるとして課税しています。最初は相続税しかなかったので、「亡くなった時にもらって税金をとられるなら、生きてるうちにもらってしまおう!」という人が現れました。それはけしからん、ということで、生きているうちにもらった人に向けて、贈与税ができました。贈与税は相続税の罰金的性格だったので、相続税より税率は高いです。
ところが、少子高齢化や景気の悪化により、裕福な高齢者から若年層に早く贈与を促したい、と事情が変わりました。贈与けしからん、だったのが、贈与してね、になったのです。そこで、相続時精算課税制度を作ったり、子や孫への贈与の税率を優遇したりしました。教育資金の贈与や住宅取得資金の贈与などもありますね。
その結果、相続税の目的が果たせなくなってきてしまいました。え、税収あげるのが目的じゃないの?いや、そうなんですけどね、相続税には、「格差の是正」という目的も実はあるんです。お金持ちの子は親からたくさん財産をもらって、またお金持ちになる。そうやって、格差が固定してしまわないように、相続の時点で税金を課して、富を再分配しましょうということですね。
今の税制では、毎年110万円ずつ何十年も贈与した、とか、子供や孫が大勢いたりすると、結構多額の財産が課税なしで移転してしまいます。これでは格差が固定されてしまって、さすがにまずいんじゃないかと。そこで、ここ3年ほど、税制改正大綱(税制改正の案)に、下記タイトルの文章が入っているんです。
「資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討」
簡単にいうと、「いつもらっても、税金同じにしよーね」ということでしょうか。相続で1億もらった人と、10年かけて贈与で1億もらった人の税金を同じにしましょう、と。裏を返せば、毎年110万円ずつ基礎控除とかできません、ということになります。
もちろん、税制改正大綱に記載があったというだけなので、まだ決まったわけではありません。具体的な手法の検討もこれからです。12月の税制改正大綱に記載がされて、それが国会を通らない限りは、実現はしないです。ただ、3年も匂わせがあるんだから、さすがにそろそろ本腰入れてくるんじゃないの?と騒がれているということですね。
どちらにしても、贈与されたい方は、今のうちにしておいた方がいいでしょう。相続税の税率が高い人(総資産の多い人)は、たとえ贈与税を払っても、少し多めに贈与しておいた方が得策かもしれません。また、実際にお金が動くわけではありませんが、法人で役員借入金が多額にある方も、早めに移転して相続財産を減らすことを検討しましょう。
今回の改正案が悪いことのように言われていますが、メリットもあります。いつもらっても税金が同じ(相続税と贈与税が一体になる)、ということは、贈与税の方が高いから贈与しずらい、ということがなくなるからです。相続時精算課税のイメージに近くなると思います。
日本では、相続開始前3年分の贈与しか相続税の計算に入れませんが、諸外国では、相続税と贈与税が統合されている方が実は多いです。しかし、10年15年、もしくは生涯の贈与をすべて一体として課税しようとなると、当然その間の贈与を把握する必要があるわけですね。そのシステム作りもあり、実際の導入はなかなかハードルが高いのではないかと思います。
現状でも、相続税・贈与税の申告はハードルが高いです。所得税の確定申告のように自分でやる、というのは不動産が絡んだらほぼ無理です。税理士にとっても、責任が重く、手間暇かかる大変な作業になります。長期間の贈与を計算する必要があるなら、その内容の開示制度をしっかりと整備して、現場が混乱しないよう、配慮してほしいですね。
※2021年12月11日追記
2022年税制改正大綱では、改正は見送られました。